遠い昔、はるかかなたのユーラシア大陸東方海上の、島国であった話。
その国の人々は、善良で心やさしく、争いごとを好まないことで知られていた。
地震、津波、台風など天災の絶えないところであったが、どれだけ被害がひどかろうと、人々は、われ先に利をむさぼることなく、乏しい食料を分かちあう利他の美風を実践していた。
ところが、こんな理想的な国でも、悪知恵を働かす人はいるもので、人々が善良なことにつけ込んで、悪さのし放題であった。そのよこしまな心をもった連中は、高級官僚と財界幹部、あるいはその使い走りの政治家と御用学者、お先棒担ぎの電気紙芝居屋と瓦版屋と呼ばれていた。
これらのよこしまな心をもった連中は、海の彼方の、米が主食ではないがなぜか米の国と呼ばれる大国の支配層に、善良な国民が艱難辛苦して稼いだ富を貢ぎ、自分たちの支配を安堵してもらうことで権力の安泰を図っていた。
彼らの悪事は、たとえば、ジュール・ベルヌという、仏教が主要な宗教ではないがなぜか仏の国と呼ばれる国出身の空想科学小説作家が書いた「海底2万マイル」に登場する潜水艦ノーチラスの動力源らしきものを、発電に応用し、その仕組みが実は人間にとっては、あの「魔法使いの弟子」のかけた未熟な魔法のように、いったん動き出すと止められない危険なものであるにもかかわらず、絶対安全で危険ではないと言いつのり、やはり案の定暴走して困った事態になると、想定外でしたと言って誤魔化す、そのような悪事であった。
しかし、そのような悪事を目の前でやられても、その国の人々はなんと善良なことに、しかたがない、支配層の人たちも寝ないでがんばっているのだから、自分たちも我慢しようと言って、怒るでもなく嘆くでもなく、従容として、あのジュール・ベルヌの潜水艦の動力源らしきものが発散する、色もなく臭いもないが、ただちにではなく、じわじわと命を奪う得体の知れないものに身をまかせるのだった…