「プーと大人になった僕」と「グッバイ・クリストファー・ロビン」

「プーと大人になった僕」、まあ、よくもこんな中身のないスカスカ映画を作るもんだ、ディズニーは。

「なにもしないことがいいことだ」と大人になったプーさんシリーズ主人公クリストファー・ロビンの口から言わせておいて、その主人公が最後に勤務先の旅行カバン会社の役員会に提案するのは、社員に有給休暇を与えて旅行に行かせること、つまり旅行カバンを買わせることなのだな。「なにもしない」のには旅行もしないし余計なものも買わないことも含まれないのかね。しかも、その提案には、CEO(だろう)の息子を悪役にしてケチを付けさせるが、CEOは万能の神よろしくすべてを理解していて瞬時にその提案を好意的に受け取るというCEO神話。ディズニー社も、その下のもろもろの役員が無能だったり邪悪だったりするからときどき失敗作も作るが、CEOは万能で善の化身だから過つことがない、と言いたいのかな、この映画は。ディズニー社のCEOヨイショ映画。映画制作にお金がかかるのは百も承知だが、脚本家やディレクターが、こうも、資本を出す側におもねっているのを見せつけられるとうんざりする

「グッバイ・クリストファーロビン」は英国映画。こちらは同じクリストファー・ロビンを扱っていても、180度違う。

プーさんシリーズの主人公として世界的人気を博したがためにかえって人生が不調和になってしまった息子クリストファー・ロビンと、作者である父親A・A・ミルンとの葛藤が話の主軸。幼少にして有名人となったゆえに学校で凄まじいいじめに合うクリストファー・ロビンが、第2次世界大戦に出征、戦地の兵士仲間がプーさんシリーズをいかに愛しているかを知って父親とその作品を理解するという、いちおうまあ、ハッピーエンド仕立てにはなっているが、全体の調子は苦い。10歳くらいまでの子どもが見ても、わからないことはないだろうが、こちらは成熟した大人向けの映画。

同じ時期に同じ人物を扱って、こうも味わいの異なる映画ができるというのも不思議なことではある。英米あるいは米英というふうに一つにはくくれないということかな。