クリント・イーストウッドの「運び屋」

先日借りたクリント・イーストウッドの、実話をもとにした監督・主演映画「運び屋」。原題は”The Mule”

イーストウッド扮する90歳の園芸家が主人公。Daylily(和名ノカンゾウ ユリ科の多年草で一日で花が終わるのでその名があるという)を栽培・販売していたが、インターネット通販に負けて倒産する。品評会で老婦人の一団に「会場が違うぞ、美人コンテストは3階だ(ったかな)」と声をかけて喜ばせるなど外面(そとづら)はいいが、その当日の娘の再婚(だろう)の結婚式はすっぽかす。Daylilyの栽培に熱中するあまり家族は放置同然。当然、妻とは離婚している(のだろう。劇中ではっきりと説明されていないが)。その主人公が、ひょんなことから、麻薬カルテルにブツの運び屋として雇われる。10数回の運び屋稼業でかなりの大金を手にして、孫娘の美容専門学校の学資や結婚披露宴の費用を出したりして、離れていた家族の好評価をかちとりはしたものの、けっきょくは当局に御用となり、有罪を自ら認めて連邦刑務所に収監される。一匹狼的主人公がなんらかの原因で(それは本人の自己中心的な生き方であったり、北軍兵士による焼き討ちであったりするのだが)家族崩壊に直面するも、紆余曲折のはてに家族再生を果たす(血のつながった家族の場合もあるし、そうではない疑似家族の場合もある)というイーストウッドお得意のものがたり。

ハデなドンパチがあるわけではなし、当年89歳のイーストウッドが、演技なのか地なのか、画面の中をよぼよぼと歩く。車を運転する場面では、いつアクセルとブレーキを間違えて暴走するかヒヤヒヤする。そんな映画が、映画観客のボリュームゾーンの若い人に受けるわけがない。敬老映画? ツタヤで新作から準新作に3ヶ月で落ちるのも無理はない。

いつものスタッフが あれこれ言わなくとも監督の意向を察して、恒例のイーストウッド調をちゃんと作り上げている、常連客向けの小品。まあ、例えて言うと、馴染客だけでこじんまりとやっている駅前の赤ちょうちん、みたいな映画に批判がましいことを言っても詮方ないとは思うが、でも、常連客の一人として一言。麻薬取引の大金のおこぼれで、家族の歓心を買って再生を果たすハッピーエンド風はイケマセン。主人公が手にした大金の背景には、麻薬に手を出して家族崩壊に至る家族がごまんと見えている。