私家版 昭和平成史 世相篇2 「公共空間の私化」

平成24年3月某日、朝7時半頃、東京近郊を走る上り各駅停車の、ほぼ座席が埋まる程度の私鉄電車内の出来事。

途中駅で乗り込んできた20歳代と思われる女が、座席を確保するやいなや、バッグから某コンビニのシールのついた袋入りの調理パンを取り出し、悪びれる風もなく、大きな口を開けてかぶりついた。数分でその調理パンを食べ終わると、今度は、袋入りの菓子パンを取り出し、同様にむしゃむしゃと。

この10分足らずの間、前後左右の乗客は、訝るでもなく、平然と、というように見える態度で、本を読んだり、携帯をいじったりそれぞれの世界に没頭。

行楽地などに向かう長距離列車ではなく、せいぜい数十分程度の乗車時間しかない郊外電車内で、この20歳代女のごとく、あたりも構わず朝食をむさぼる傍若無人の風景がしばしば見られるようになったのは、平成に入ってから数年してのことか。

言うまでもなく、通勤電車の車内は公共空間であり、そこでは飲食や化粧の類の私的行動は慎むべきものであることは、暗黙のルールとして了解されていたはずのものだが、いわゆるバブル経済の崩壊と軌を一にしたのか、上述のごとき堂々たる飲食や、塗るの描くの大わらわの化粧など、公共もへちまもあったものかというごとき振る舞いが目に付くようになった。

経済のバブルが文字通りうたかたのごとく消えるとともに、公と私の区別をつけるルールも幻のように消えてしまったのだろうか。