正月恒例の国立劇場歌舞伎公演を見た。
今年の出し物は、「南総里見八犬伝」。菊五郎一座に左團次が客演?ということになるのかな。菊五郎は脚力の衰えを隠せず、飛んだりはねたりの立ち回りなどは論外というところ。だが、せりふ回しはさすがで、音吐朗々、貫禄十分、場内隅々まで声が届く。
そういえば、同じ国立劇場の12月公演の吉右衛門も足取りが今ひとつだったな。10月公演の幸四郎にはあまり感じなかったのだが、同世代でも個人差があるということか。いずれにせよ、大芝居の世界も、彼らの子どもたち、菊之介や染五郎との世代交代の時期にあるのだろう。
ちなみに筆者はいつも1500円の3等席。数年前までは3階席の後ろ3分の一ほど、4〜5列が3等席だったのだが、現在は3階席最後部の一列と1階最前部の左右両脇のみ。そのとき、これは実質的な値上げではないかと国立劇場のモギリの人に抗議したら、後ほど担当者がご説明にうかがいますとのこと。幕間にその担当者が来られたのだが、自分と歳もあまり変わらない人の良さそうな方で、国立劇場の監督官庁である文部省の天下り役人でも来たら一泡吹かせてやろうとてぐすね引いて待っていたのに拍子抜け。あれこれ世間話をしてお開きのお粗末。
そんなわけで、少なくなったとはいえ、3等席がまだあるというのは、このせち辛い世の中では奇跡とも。なにしろ、1500円で、数百年続く伝統芸能の実演を、休憩をはさんで4時間も堪能できる機会なんてそうざらにはない。願わくば、三文役人風情が、受益者負担なんぞと利いた口を聞いてわずかに残った1500円席をなくさないことを。